「企業の海外進出の踏み台に」神奈川県水道事業の民間開放-箱根地区の包括委託を考える(1)[Sunday Report]

 水ビジネスの経済市場は2007年で36兆円、25年には87兆円になるといわれるビッグビジネスです。神奈川県は松沢成文知事時代以来、黒岩祐治知事も水道事業を大企業に開放してきました。

 松沢知事は11年1月5日の定例記者会見で「かながわ方式による水ビジネス」の展開を発表し、水道事業のノウハウを民間に伝授し、国際水ビジネスへ大企業の参入を導くことを決めました。こうして、命の水までも企業が握る時代への先鞭をつけました。

 黒岩知事は、昨年4月から県企業庁箱根水道営業所が行ってきた業務を、JFEエンジニアリングなどで構成する共同体の民間企業「箱根水道パートナーズ株式会社」に全国で初めて包括委託しました。

共産党ゼロの中で実施がすすむ

 県は12年6月県議会県民企業常任委員会で、県企業庁箱根地区水道事業の包括委託に向けた取り組みの目的を次のように説明しています。

 「水ビジネスの海外展開の動きがある中で、現状では企業等に水道事業の運営実績がないことが海外進出の支障になっている。そこで、『かながわ方式による水ビジネスの確立に向けた取り組み』の一環として、水道事業運営のビジネスモデルを構築し、着実に足元を固めた上で、国内、海外に事業展開をしていくことを支援するため、箱根地区水道事業を包括委託する」。

 水道事業は、利用者の水道料金でまかなわれています。従って利用者がサービスを享受すべきものです。そこには、本来、「県民である箱根町民の福祉向上につながる」というそもそも論があるべきだったのですが、そんな議論はありませんでした。つまり、水ビジネスの海外進出のために民間企業に経験を積ませるためだが、水道事業をまかせて大丈夫か、というものだったのです。

福祉向上のそもそも論不在

 県民企業常任委員会での議員のおもな質問を紹介しましょう。

 「他の水道事業体が海外へ進出している中で、どうして企業庁は自ら海外に出て行かない『かながわ方式』で、事業をすすめようとしているのか」(12年6月議会)。

 「神奈川県の今回の取組みは、狙い、理念が海外展開というフレーズ、言葉も置きつつ、だいぶスケールが大きく定められていると思う」(同年9月議会)。

 「水道事業は利用者の水道料金で賄われているが、箱根地区を委託するということで、サービスの低下という懸念はないのか」(同年6月議会)。

 「リスクとして、地震災害発生時などの対応もあるが、包括委託により、災害時の対応、対策に支障は出ないのか」(同年6月議会)。

 「心配や危惧もある。箱根地区の皆さんからも今まで公がやっていたので安心していたのが、民間が来るとなってやはり不安に感じるところも、飲んだり生活に使うもののため、あるかと思う」(同年9月議会)。

 「県民の口に水が入る前の最終チェックだけはした方が良いのではないかと私は申し上げたが、それはされないという話なのか」(同年12月議会)。

 「実績がないから不安であるということであれば、企業との関わり合いをもう少し、5年間最初からすべて任せるのではなくて、逓減的に企業庁の関わりを減らしていってよいはずである。そういった中で少しずつ実績のないところ、そういうとこを育成しないと、せっかく良いことをやろうとしているのに効果が半減してしまうと思う」(13年6月議会)。

公が水道事業を担ってきたが

 日本では、水と空気はただといわれ、明治以来、公が水道事業を担ってきました。命に直結する水は、憲法26条「健康で文化的な生活」をする上で不可欠で、水道法第6条2項で、国や地方自治体の公共部門が責任を持つとしてきました。水道法第1条は「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする」としています。

 民間委託された箱根町北部の水道事業は、給水人口約6500人、委託費約8億5千万円です。ここで行っている包括委託とは、現在の県営水道が行っている水道料金の徴収に関わる業務、水道施設の維持管理運営に関わる業務、お客様対応等の窓口業務といったほぼすべての業務が対象となり、これらの業務にかかわるリスクは原則として受託事業者が負うものです。

 また、災害対策に関する業務もその中に含まれており、地震等の災害により、施設に被害が生じた場合には、企業庁災害対策計画に基づく配備体制をとり、施設の被害状況の把握やお客様への断水情報などの広報、応急復旧や箱根町への応急給水業務をすることになっています。

 13年6月議会で当時の古谷企業長は「今回の水ビジネスの関係で箱根を選んだということは、水源から末端の給水、料金徴収のところまで、独立している。そういう意味で水道事業全体を経験できるということで、海外へ出て行くときにこれが大変重要なファクターになる」と述べました。しかし、海外進出のために企業の水道事業の習得を目的に箱根水道営業所を民間に包括委託したことは、モデルケースとして適切だといえるのでしょうか。