「水は商品でなく、人間の権利」神奈川県水道事業の民間開放-箱根地区の包括委託を考える(4)[Sunday Report]
「水は商品か」「水は誰のものか」。この問いかけに世界が揺れています。2005年に放映されたNHKスぺシャル「ウォーター・クライシス~水は誰のものか~」は水ビジネスの問題点を特集しました。地球は水の惑星です。ほとんどが海水で、淡水は川、地下水、湖など0・8%。この淡水の争奪を巡って、今、世界中が揺れ動いているのです。特集の第1回目(05年8月20日放映)は「狙われる水道水」でした。
水道事業の民営化問題は、開発途上国だけの問題ではありません。アメリカのカリフォルニア州のフェルトンという3250人の町で民営化された水道事業を公共事業に戻す住民投票が行われ、2005年に74・8%の賛成で公営化されました。
そもそも水道の権利は、フェルトンを切り開いた人たちが持っていましたが、地元の民間企業が買収、それが02年に遠く離れたニュージャージー州に本社を持つ水ビジネス企業に買収されました。その後、イギリスの企業に買収され、最終的にドイツを本拠地にする水ビジネス企業に買収されました。会社は売り上げが年間5兆円もある巨大企業です。事業の多角経営に失敗し、水道料金の相次ぐ値上げが行われ、抗議する住民らが水道事業の買戻しの運動を起こしました。
水道のパイプを取り換えた後、工事の跡を舗装したところ、道路に穴があき、デコボコができていました。住民が苦情を言おうとすると、窓口が3000㌔離れた場所にありました。05年の春までに直すはずだったのが、05年の放映時点でも直りません。
以前、水道事業を地元の企業が運営していたときは事業者と利用者が顔見知りで、ファーストネームを呼び合う中で、それぞれ事情が分かっていたと住民は訴えます。
その時は、値上げがあっても物価上昇の範囲内でした。しかし、グローバル企業に買収されると、料金の値上げはしないという約束を覆し、インフラ整備を理由に3年間で2倍にすることを求めてきました。
特集では住民の言葉を紹介し「水は生き物にとって不可欠。空気と同じように大切。水を自分たちでコントロールできないのは命の危機、命を奪われることだ」とのべています。
フェルトンの人たちは12億円を出して、水道事業を買い戻すことを選択しました。12億円、1世帯あたり、30年間、年間6万円の負担になります。税金が高くなっても水を取り戻す選択をしたのです。「水は商品ではなく、人間の権利だ」と言っています。
以上が放映内容の一部です。
箱根地区の水道事業の包括委託は、企業庁が住民にも説明せず、住民合意もなく実施しました。
運営主体の箱根水道パートナーズ株式会社の本社は、横浜市鶴見区。滞納による水道の停止などは企業庁平塚水道営業所が遠くから指示を出しているといいます。
アメリカカリフォルニア州フェルトンの問題は、水道事業の包括委託によって、他人事ではなくなってきているのです。
上の写真は、県民の水がめ丹沢湖=大野山牧場より