「政府・財界先取りのかながわ水ビジネス」神奈川県水道事業の民間開放-箱根地区の包括委託を考える(3)[Sunday Report]
「水ビジネスとはなにか」「なぜ、水ビジネスでベトナムなのか」という質問を読者からいただきました。
「水ビジネス」というと、ペットボトルで日本の水を売ることをイメージしたのですが、読んでいるとそうではないみたいという読者の感想です。
日本大百科全書(ニッポニカ)によると、「水ビジネス」は「飲料水を中心とする上水を精製し、流通させるビジネス。具体的には、上下水道の設備インフラ、海水の淡水化プラントなどの建設や運営をさす。広義には、汚染水の清浄化事業や、ペットボトル水や家庭用浄水器の製造・販売も含む」と書いてあります。
さらに、「水ビジネスは開発途上国における都市化の進展、富裕化に伴う健康への関心の高まり、淡水資源の不足により、世界的に拡大が続いている。
世界の市場規模について経済産業省は2007年(平成19年)の約36兆円が2025年には約87兆円になると見込み、グローバル市場ではヨーロッパの水メジャー企業に後れをとっているものの、日本企業にとってのビジネスチャンスととらえている。
とくに、浄水に欠かせない濾過(ろか)膜では東レ、日東電工、東洋紡などの日本企業が世界シェアの約50%を占めている。[編集部]」とあります。
世界でも優れているという日本の水道事業の輸出はオペレーションを含むインフラ整備のセット輸出です。ダムに貯水し家庭の蛇口から水が出て、料金を徴収するまでの水道事業を海外に輸出しようというのです。
東京都や横浜市では直接自治体水道局が官民連携で海外に進出していますが、「かながわ水ビジネス」は、民間企業を育成して海外で「水ビジネス」をさせようとしているのです。
「かながわ水ビジネス」は、企業の海外進出のために経験をつませるとして2014年4月から、県企業庁の箱根地区の水道事業をJFEなどで構成する「箱根水道パートナーズ株式会社」に包括委託しました。
当時、古谷企業庁長は「最初の水源管理から浄水、それから配水、給水、そういうものを含めて、料金徴収までトータルのものを包括的に委託して(民間企業に)経験を積んでいただく。それが海外の経験につながっていく」(13年6月21日県民企業常任委員会)と答弁しました。
この古谷企業庁長が答弁した、民間企業に県企業庁の水道事業を包括委託する「かながわ水ビジネス」は、海外も国内の水事業も民間でやらせようという全国でも特異な民間開放で、国の方針の先取りなのです。
水道事業などインフラ輸出は、経団連が以前から方針を出していましたが、安倍政権になり、アベノミクスの「日本再興戦略」(13年6月14日)で「海外市場獲得のための戦略的取組」の中で、インフラ輸出が位置づけられました。インフラ輸出は、当時の10兆円産業から30兆円産業へ飛躍させる成長産業としています。
さらに経団連の「戦略的なインフラ・システムの海外展開にむけて~主要国別関心分野ならびに課題2014~」(14年11月18日)で、ベトナムへの上下水道輸出が他の主要インフラ輸出とともに関心事項の第1位にあげられます。
そしてこうした流れを背景に今年8月、共産党委員を除く県議会県民企業常任委員会が水ビジネスでベトナム視察に取り組みました。
15年の「『日本再興戦略』改定2015」(15年6月30日)で、海外のインフラ輸出とともに、「自治体に求められる新たな役割(官制市場の民間開放による新ビジネスの創出)」が位置付けられました。
今年9月1日には箱根町長が町営水道を黒字経営なのに民間に包括委託を検討すると町議会で宣言しました。
つまり、県内の水道事業も民間委託が拡大する方向へシフトしました。
しかし水道管が破裂し、水浸しになっているとか、水道管の老朽化が問題となりそれを新しくするには地方によっては水道料が今の3倍以上になることも考えられると報道されています。
日本の水道は今大変むずかしい問題をかかえているのです。それを民間会社にまかせればすべて利用者負担になりかねません。これは公的責任で清浄にして豊富低廉な水道を住民に供給するとした水道法に反するといわなければなりません。
水は、ライフラインで命の源です。それを、一民間企業、それも経験のない民間企業にまかせるというのです。ですから、自民党県議が企業庁箱根水道営業所の水道事業の包括委託を「実証実験」(13年6月21日、県民企業常任委員会)と言ってしまったのは思わず本音が出たのでしょう。