「海外進出のための習得には不適切」神奈川県水道事業の民間開放-箱根地区の包括委託を考える(6)[Sunday Report]
神奈川県企業庁OBの小川晃司さんが自治体研究社から出版した「これでいいのか自治体アウトソーシング」で箱根水道事業の特徴を書いています。
それによると、箱根水道事業の包括委託が、海外進出のための水道事業の習得には不適切な場所であると指摘しています。
- 箱根の給水域が山中で標高450メートルから1050メートルまで600メートルの標高差があり、水運用や水圧に特段の配慮と経験が必要なこと。箱根では漏水が沢に流れるなどの発見が遅れてしまうこの分野でも経験が必要なこと。
- 箱根は雨量が多く、平地の2倍程度降り、大雨の時は水源の湧水の濁度があがり、冬は氷点下になることが多く、水道施設の凍結、漏水による路面凍結など事業者の注意が欠かせないこと。
- 観光客に「箱根の水は美味しい」と喜んでもらうため、湧水を使うなど良質な水の塩素の濃度を減らし、細やかな水質管理が欠かせないこと。河川などの水源の汚染がひどく、浄化して水道とする海外の事業のモデルにはなりにくいこと。
- 一般の地域では家庭用が75%ですが、箱根では62%がホテル、旅館などの業務用であり、70度前後の温泉なので、断水すると湯温を下げられず温泉に入れなくなること。
- 箱根は、給水区域内の人口は約7000人ですが、宿泊客が8月だけでも1日9000人おり、昼間の観光客をあわせると1日約25000人が管内に滞在する観光地であること。
- 火山、風水害など町に入る道路が限られ、土砂崩れなどのときには孤立してしまうこと。
- 箱根は国際的観光地で、水質事故や長時間断水事故は、日本の国際的なイメージを損なう大きな問題であること。
以上7点の理由をあげています。
小川さんは「国際観光地において企業育成のためのモデル地域の実習の場とすることによって、1人の社員のミスによって、国際的観光地のイメージダウンにつながることの方が恐ろしい気がします」と述べています。
何十年に一度の大雨や台風、活発化する火山など自然災害が猛威をふるっていますが、10年に一度の大雪など、長年勤務した水道局職員でも水道の保守管理に戸惑うことが多いそうです。民間企業は、契約期間が5年ごとの更新です。
小川さんに公営から民間企業になって何が問題なのか聞いてみました。「東電の原発事故のように、企業に都合の悪い情報が隠ぺいされることが一番の問題点。例えば水質が汚れたとか、重要な事故を議会という公の場で公開させ、追及できなくなることだ」と言っています。
(箱根水道パートナーズの配水池)