「独占企業となり、料金値上げ」神奈川県水道事業の民間開放-箱根地区の包括委託を考える(5)[Sunday Report]
NHKスペシャル「ウォーター・クライシス~水は誰のものか~」(2005年8月20日放映)では、発展途上国で公共水道を民営化した水ビジネスの例も紹介されています。
それによると、フィリピンの首都マニラでは、公営事業省の資金が不足し公共事業を民営化しました。水道事業は、地元の財閥とフランスのグローバル企業が共同で設立した民間企業「マニラッド」に1990年代後半から「10年間は値上げをしない」という約束でゆだねられました。マニラッドが世界銀行から資金を借り、インフラ整備を行いましたが、アジアの通貨危機を引き金にペソの価値が下がり、借金返済のため設立から半年後に水道料を値上げし、その後も、度重なる引き上げを行い、水道料は以前の4倍になりました。
にもかかわらず、世界最大の水ビジネス企業のフランス会社には売り上げの1%を支払う契約の上、フランス人技術者には見習い技術者でさえ1日6万円、最高1日20万円の日当が払われました。
政府は「水道料の値上げでなく、事態を収拾するようにマニラッドに指示」しましたが、マニラッド側は「料金の値上げを認めなければ水道事業をやめる」と応酬。マニラッドの水道整備の状態が悪く、03年には汚染された水道水から1000人近くがコレラに感染しました。結局、マニラッドは倒産し、水道事業は荒れ放題となったのでした。
南アフリカでは、水道事業の民営化で料金が上がり水道水を飲めなくなった住民が、川の水を飲みコレラに感染した事件が起きました。南米のボリビアでは、民営化による水道事業の料金値上げに反対して、公共事業に戻す大規模なデモが起き、民営化を撤回させました。
これらは、民間企業による発展途上国での水ビジネスが、必ずしも相手国の住民生活の福祉を向上させるとは限らないことの証明です。
水道事業は、給水地区をひとつの企業が独占し、企業間の競争もなく料金を低くできないという特徴をもち、市場原理が働かないのです。
発展途上国の援助で、人材交流、国際貢献としては、相手国に役立つ部分はあるでしょう。しかし、水道事業を商品化する水ビジネスは、民間企業の利潤追求と公益性が矛盾対立するという事例が数多く起きているのです。